2009の歌

どのように生きてきたのか考える貧しき言葉が満ちる夜は
ユウアイの印のようにたたまれたノートの切れ端にアンゴウ並ぶ
どれほどの思い伝わるというのか現状維持が格差となって
名前だけくっきりと書く少年の解答用紙が最後の答え
冬の日に飛ばした小鳥を追ってUターンした道はもうない
香ばしく焼かれるバナナ数えて原型を忘れるガトーショコラ
日曜の朝に煮上がるジャムを待ち食卓の花飾り終える
やわらかく微笑むあなたに春の風願いをきっと届けにきたのね
少年は自ら生きる空間をカタカナ世界に見出してゆく
梅の花が咲きましたと速達の葉書ののちに訃報また聞く
少年はまだ眠い朝かろうじて嫉妬心だけ抱えて歩く
夜の川の前に立てば仔猫鳴くこの街に一つ生まれるいのち
春の陽はつま先立ちの少女等が紅さす指をあたたかくして
ふわふわのシフォンケーキが焼けましたとマスターは今開店準備
雛飾る幼き日には笑わない弟がいた 今日からは春
カフェごっこする休日真っ白なランチョンマットに取り換えてみる
アルバムの真ん中にいる弟は水玉のシャツに着替えたばかり
片方の上履きシューズ脱ぎながら明日の約束なんかしないで
路線図を調べる人はその先にある悲しみにまだ気づけない
ひだまりで笑う少女のスカートが揺れて春の日さよならと言う
逆光の中でその人に問う夏助手席の背が戻されたわけ
足音の主を探して一日を終わらせてゆく少女は悲し
君は笑って生まれたからと私の名を呼ぶ父も老い始めている
いい足りない気持ちのまま見送った飛行場にてチョコレイト買う
記念日を数える少女が春の日にさよならと言う春の日が来た
行くあてがあるのかと問う春の日にマーブルとなる君のかたちが
戻れない場所かも知れぬ少女にはピアスとリング外した部屋は
頑なに拒む一文字なぞれば冷えゆく窓の結露はじまる
チーズ焼く夜に凍えてなんかない来ぬ人のいた冬なんかより
柚子ジャムの瓶の数だけアイシテル2本目からは小さめにして
パイ生地をたたむキッチンから逃げた林檎のようだね「お帰りなさい」